Dr.新井の海外レポート2
スウェーデン短期留学およびヨーロッパインプラント学会(EAO)参加レポート
アーティスティックデンタルクリニックの新井です。今年も私は坂口院長とともにスウェーデンへ短期留学して参りました。
現在、インプラントは日本においてもますます普及し以前に比べより身近な治療方法となってきました。しかしながら欧米諸国と比較すると保険制度の違いもあり、まだまだ一般的には普及しているとは言えません。
また、世界には現在約270種類のインプラントシステムが供給されているそうですが、日本に導入されているシステムはその一部で、優れた製品も残念ながら欧米各国に比べ様々な事情から導入が数年遅れるのが実際です。
そのような中、インプラント発祥の地で最先端のインプラント治療や技術、最新のシステムについて学ぶことで、日本の置かれている立場もまた学ぶことができました。
私共にとっては日々使用しているインプラントですが、患者様により安心して頂けるよう製品の成り立ちや特徴、インプラント手術に関する新しい知識や技術を学び努力することは大変重要なことだと認識しております。
アストラテック本社
最初の研修先はスウェーデンに本社を置くアストラテックデンタルです。同社のインプラントは当院で使用しているメインのインプラントです。アストラテックインプラントを使用している歯科医院は日本にも数多くありますが、その中でもスウェーデン本社での研修を受けていることは当院の特徴でもあり、また当院にお越し頂く患者様により安心して治療を受けて頂くためにも重要なことだと認識しております。
F1カーのサスペンションとタイヤの接合部を示したイラストです。皆様もご存じのように、この部分は優れた強度と何よりも正確に素早くジョイントされる必要があります。この接合様式にもコニカルジョイントという方式が採用されているそうで、アストラテック社製インプラントも同様の方法により、インプラント体と上部構造(歯)を接合する形式を採用しております。
トーマス・アルブレヒトソン教授の講義風景
スウェーデン・イエテボリ大学歯学部長トーマス・アルブレヒトソン教授のレクチャーを受ける機会がありました。今回の研修で最もお話をお伺いしたかった方のお一人です。インプラントは顎骨内に埋入後、骨と結合することにより強固な安定を得ますが、その結合にはいくつかの因子が関与しています。その因子の内の重要なひとつにインプラント体の表面部分の性状があります。教授はそのインプラント表面性状についての研究でも世界的権威で、我々にとって非常に重要で興味深い講義を拝聴することができました。また教授のインプラントについての新しい見解に関するお話は今後のインプラントの新基準になるであろう重要なものでした。
アストラテックデンタル製品責任者のレクチャー
製品責任者のHolmen先生からは新製品OsseoSpeed™のレクチャーがありました。特に新製品の最大の特徴である表面性状について、骨との結合に関するメカニズム、治癒期間の安定性の推移などその有用性について詳しく説明して頂き大変参考になりました。
アストラテック社の新世代インプラント
Osseo Speed™
様々な研究に基づき開発されたOsseo Speed™。アメリカの厚生労働省にあたるFDA(Food and DrugAdministration:アメリカ食品医薬品局)が「軟らかい骨にも有効なフィクスチャー(インプラント)である」と認定しているそうで、インプラントに関して公の機関が認めているケースは非常に珍しいとのことでした。
インプラントはそのものが骨に結合し安定することも重要ですが、その後、インプラントにどのような歯を作製するかも見た目や長期間の経過予後に非常に重要になります。そのような中、歯を作製するにあたり様々な新しい製品が開発されており、興味深いお話をお伺いすることができました。
この日はライブオペレーションに参加しました。レクチャールームにガラス越しに手術室が完備されており、実際の手術を行う様子を大きなスクリーンに映し出し手術の手技をその場で学ぶことができる仕組みになっています。音声も術者側とオーディエンス側で交わすことができますので、こちら側からも質問することができ、即座に答えてもらえます。このような最新設備での研修は大変勉強になります。
コンピューターを用いた
インプラント手術の
シュミレーション。
今回のライブ手術は、上顎の歯を全て失った場合に6本のインプラントを埋入後、歯を作製していくというケースでしたが、この画像はその手術の際、インプラントをどのように埋入すると良いかをコンピューターでシュミレーションした様子です。実際にはCT画像と歯型を合成させ解析していきます。以前からもこのようなシュミレーションソフトによる方法はありましたが、最近では各インプラントメーカーからより精度を向上させ実際の手術に応用しやすい方法で順次導入されています。日本でもこのような解析ソフトを利用してインプラント手術を行う方法も次第に普及してきています。アストラテック社のこのソフトは残念ながら日本には未導入ですが実際の手術での応用方法をいち早く学ぶことができ大変興味深いものでした。
この日はイエテボリ市街を流れる川のほとりにあるレストランで夕食をいただきました。
イエテボリ大学
次の研修先はスウェーデン・イエテボリ大学です。イエテボリ大学はインプラントに関する臨床・研究においても世界最先端機関の一つです。今年も当大学での研修を受ける機会を与えて頂き大変栄誉に思います。
緑も多く素敵な建物も並ぶイエテボリ大学。インプラントのみならず歯科についての最先端の臨床・教育・研究が行われています。
上顎にインプラントを埋入する際に、わずかに骨が不足している場合の処置方法についての講義です。インプラントを埋入する際に十分量の骨がない場合は事前に骨を増量させて埋入しますが、この方法ではあと数ミリの骨量が欲しい場合、事前に骨を増量させることなくインプラントを埋入する際に同時に上顎の骨に近接する空洞(上顎洞)への処置を行うことによってインプラントを安全に埋入します。手術期間の短縮、外科的侵襲の軽減など患者様の負担をより少なくするためにも非常に有効な手法です。
この日参加したオペは下顎にインプラントを埋入する際に十分量の骨がない場合、事前に骨を増生させ、期間を置き、より安全にインプラントを埋入するケースでした。
そろそろ日本食が恋しくなった頃にイエテボリでは老舗との日本料理店へ。皆さん少し不安げにメニューを覗き込んでいます・・・。
スウェーデン⇒ドイツ⇒フランス・ニース⇒モナコ
珍しいハプニングがありました。そろそろ出発かと思った矢先、荷物のトラブルから一旦搭乗した乗客をすべて降ろして各自の荷物をチェックするといった事態が。機内アナウンスで「残念ながらBadNewsですが・・・」と流れたので何事かと思いびっくりしました。原因は乗客の数より荷物の数が1つ多いとのことでしたがちょっと怖かったです。
ヨーロッパインプラント学会(EAO:European association for osseointegration)
スウェーデンでの研修も修了し、最後に今回で18回目を迎えるヨーロッパで最大のインプラント学会(EAO:European association forosseointegration)に参加してきました。今年はモナコ公国での開催ということもあり例年以上の盛り上がりでした。
「地中海の宝石」とも称されるモナコ公国。フランスのニース:コートダジュール空港から車で約30分ほどです。国面積は約2kで皇居の2倍ほどの大きさにあらゆるものが詰まっていました。人口は約3.7万人で64人に1人の割合で警察官が配備されているそうです。高級リゾート地のイメージそのものの美しい街並みや海に並ぶ豪華クルーザーを目にすると学会に参加している場合ではないのでは・・・とも思う程、感嘆する毎日でした。
学会場の中の展示ブースには各企業から最新の製品が展示・紹介されています。日本では見ることができないものもたくさんありとても興味深く参考になるものも数多くありました。
学会中に開かれたセミナーにてアストラテック社OsseoSpeed™インプラントを用いたケースの経過報告症例の発表がありました。長さ6という短いインプラントを用いたものですが経過は非常に良好とのことでした。日本に導入される前に経過報告症例を聞くことができ大変参考になります。
インプラントを埋入する場所に隣の歯や骨内の血管や神経などによって制限がある場合、このような細いインプラントや短いインプラントは非常に有効な選択肢となり得ます。このようなインプラントが安心して使えるよう開発されることは我々歯科医師にとっても患者様にとっても非常に有意義なことであります。
モナコといえばF1レースの会場としても有名ですが、市街地のレースだけあって街のあちらこちらにコースの有名なポイントがありました。ちょうど宿泊したホテルの真下がトンネル、前がローズヘアピンと呼ばれる箇所で、どちらのポイントも時速何百キロで駆け抜ける勇気は僕にはないな・・・と名所を前にF1パイロットの凄さを感じました。
価格は€905,000!モナコではこういった車も売れるのでしょうか・・・。あまりの衝撃に日本円では一体いくらなのか計算できませんでした。
この発表は前歯を抜いてインプラントを埋入する際のケースでした。前歯は審美ゾーンと言われ、見た目が非常に重要になってきます。また、見た目に関係がある分、出来るだけ早期に治療を終了することも重要な要素になってきます。一般的なケースとして歯を抜いた際、十分量の骨があれば傷の治りを一旦待ち、その後インプラントを埋入、骨と結合し安定したのち歯を作製するといった順序になります。しかし十分量の骨がない場合などは、それに付け加え骨を増生する処置や期間も加えられます。そうなるとインプラントの本来の弱点である「治療期間がかかる」処置になってしまします。しかしこの症例では、期間をあけず、歯を抜く→骨を増やす→インプラントを埋入する→仮の歯を取り付けるという工程を一度に行います。そうすることで治療期間の多くを短縮するというものです。このような方法は材料の進歩とともに次第に定着しつつあり研究結果も多くでるようになってきていますが非常に興味深いものでした。
フランスのKhoury先生からは見た目が重要な因子となる審美ゾーンのケースについて発表がありました。審美ゾーンでは硬組織(骨)と軟組織(歯肉)の長期にわたる安定と調和が非常に重要な要素となってきます。優れたインプラントや歯を作製する際の材料の開発が進みますます良好なものとなってきています。また長期の安定を支えるものとして治療後のメインテナンスの重要性についてもお話されておられました。
今年は秋深いスウェーデンの研修から始まり、地中海性気候の太陽が降りそそぐモナコでの学会まで、なかなか体調管理も大変でしたが、日本だけではなかなか習得しきれない知識や技術を得ることができ、大変充実した研修ツアーとなりました。また、今回もスウェーデンでの研修を受ける機会を頂けることはインプラント治療に従事する歯科医師の中でも非常に光栄なことでもあり、ご尽力頂いた坂口先生、メデントインスティテュート代表・伊藤正夫先生、ならびに研修にご一緒させて頂いた先生方に心より御礼申し上げます。
研修を積み重ねる度に、日進月歩で進化するインプラントについての様々な知識や技術を研鑽することの重要性を感じつつ、明日からの診療にまた役立たせるよう頑張る所存です。