Dr.新井の海外レポート4
ヨーロッパインプラント学会(EAO)参加レポート inギリシャ
こんにちは、アーティスティックデンタルの新井です。このたびギリシャ・アテネで開催されたヨーロッパインプラント学会に参加して参りました。
日本でも益々普及しつつあるインプラント治療ですが、日々インプラント治療に従事する歯科医師として、世界における最新の情報を学ぶことは大変重要なことであると考えております。そのような中、日々進歩するインプラントに関する知識や、日本未導入の最新製品について今年も学んで参りました。
アテネでの学会開催前に立ち寄ったギリシャ・ミコノス島です。青い海と空の中、伝統的なキクラデス様式と言われる白い建物が彩る風景は、写真や絵画で観た景色そのもので、「エーゲ海に浮かぶ白い宝石」とも称されるこの島の美しさには目を奪われるばかりでした。
EAO Pre congress seminar
本学会前日に開催されたセミナーにまず参加しました。
スイス・ベルン大学のGiovanni Salvi先生より“Avoiding and managing surgicalcomplication”というテーマでレクチャーがありました。
インプラント周囲炎を予防するためには、インプラントに作る歯(上部構造)の形態も重要な因子になります。見た目を優先するためなどに、歯ぐきと歯の隙間を埋めるよう不用意に形を作製すると、歯の周囲のケアが十分にできなくなり、結果、インプラント周囲の炎症を惹起してしまうとの研究結果もご報告されておられました。
アテネ初日の夜は、今学会のツアーにご一緒させて頂いたメデントインスティチュートの先生方とディナーを頂きました。アテネで一番高い丘の上にそびえ立つレストランはとても豪華で美味しく料理も頂きました。
学会の開催前の早朝にアテネの港から船に乗り約40分、エギナ島というところに立ち寄りました。ここはピスタチオの産地でも有名な島です。滞在時間1時間程の間に見学したアファイア遺跡は紀元前1世紀頃に建設されたと聞きましたが、そうとは思えない程、保存状態が良く、荘厳で神聖さを漂わせる神殿でした。その他にも有名な聖ネクタリオス修道院などもあり、是非またいつかゆっくりと訪れてみたいです。
EAO 20th Annual Scientific Meeting in Athens
今年で20回目を迎えるヨーロッパ最大のインプラント学会・European Association for Osseointegrationの会場です。毎年、ヨーロッパの各国持ち回りで開催され、今回はギリシャ・アテネでの開催です。来年はデンマーク・コペンハーゲンで予定されています。ヨーロッパのみならず、世界各国から先生方が参加しておられます。アジアエリアでは以前は我々日本からの参加の先生がメインでしたが、次第に韓国や中国からの先生も増えてこられました。世界各国のインプラント関連メーカーからの展示・出品ブースも並び今年も大変盛り上がっていました。
学会発表の様子。今年も世界各国の先生から最新の研究結果についての発表や、臨床術式に関する発表がされました。
Straumann(ストローマン社)が発表したインプラントシュミレーションソフトの新製品です。現在、TVや映画、ゲーム機などでも普及している“3D”ですが、その3Dを利用したシュミレーションシステムです。ついに歯科医療分野にも3Dが導入されたと驚きました。写真では分かりにくいかと思いますが、3Dメガネを装着して画面を観ることに歯の画像をより立体的に観る事ができます。
ノーベルバイオケア社は数多くのインプラント体を開発・販売しています。
Zimmer社が開発した今までに見た事のないタイプのインプラントがありました。通常インプラントはチタンを用いて作られていますが、このインプラントはインプラントの胴部中央の半分の領域にTrabecularMetalと呼ばれる生体親和性の高い特殊な素材を埋め込み作成されています。このmetalの特徴は多孔性(スポンジのように無数の穴があいているようなイメージ)で、顎骨内に埋入した際に周囲の骨とインプラントがより結合しやすく工夫されたものです。人工関節などにもすでに応用されているようですが、今後もこのような新しい素材を用いて工夫されたインプラントが開発されていくものと思われます。
アテネの街並み。アテネ市街にはあまり高層の建物がありません。何らかの高さの規制があるのかも知れませんが、ある程度同じ高さの建物が並んでいて、それが逆に均正のとれた美しい街並みになっているのが印象的でした。
Good evening astra tech seminer
インプラントに歯をつなぐアバットメントは従来までは金属を用いられることが一般的でしたが、より歯の色に近い白色素材(ジルコニア)を用いたものも開発され、強度実験でも遜色ない結果が証明されています。
新製品の特徴は、インプラントの形状に工夫がなされていることです。一般的に歯を喪失した際の歯槽骨の表面(歯があった側)の形状は、平らな状態ばかりでなく、やや斜めに吸収され安定します。現在までの製品の形状はフラットになっていましたが、今回、より骨の形態ともなじみやすくなるよう、斜めにカットされ、インプラント埋入後、長期にわたり、歯周組織(歯肉と周囲骨)の安定を目指したものになっています。このように、インプラントには各社それぞれの研究により様々な改良が加えられてきています。
歯の根(歯根)がハセツしてしまい残念ながら抜歯になった症例に、今回の新製品を実際に応用した発表もありました。
アメリカのLyndon cooper先生から同社の新世代インプラントOsseo speed™についての講演がありました。以前のレポートでもご紹介させて頂きましたが、欧米では約7年前からすでに導入されていたOsseo speed™インプラントですが、本年、ようやく日本でも認可がおり、当院でも次第に導入しています。海外ではすでに導入されていたこともあり、今回、日本ではなかなか聞けないさらに詳しいお話を拝聴することができました。
Osseo speed™インプラントの最大の特徴は、その表面性状にあります。インプラントと骨の結合をより強固に確実にするために、インプラントの表面を特殊な処理によって今までの製品に比べ、より微小な構造(ナノトポグラフィー)になるよう開発されています。
従来のTio blast™と呼ばれるインプラントも優れたインプラントですが、新製品はより優れた特徴を備えるとの比較研究の発表がありました。我々歯科医師にとっても、導入にあたり安心して使用することができます。
以前、スウェーデンの研修でもお世話になった、イエテボリ大学のトーマス・アルブレヒトソン教授からインプラントの50年の歴史についてのレクチャーがありました。
インプラントの歴史は1962年、PIブローネマルク教授が、金属の一つであるチタン(Titan)と骨が結合する=オッセオインテグレーションを発見したことから始まります。ブローネマルク博士および研究チームの先生方の多大なる研究成果により、今日のインプラント医療の発展があります。
トーマス・アルブレヒトソン教授は当時、ブローネマルク博士の研究チームの一員でした。アルブレヒトソン先生は今回、50年という節目に、当時の開発経緯や、いかにしてこの発見を医療に応用し世界に広めていくかなど、貴重なエピソードをお話して下さいました。インプラントに従事する歯科医師であればどなたも御存じのブローネマルク博士と“オッセオインテグレーション”について、今までに聞いたことのない大変貴重なお話をお聞きすることができ、また当時の資料などをご紹介して頂き、本当にありがとうございました。
Astra tech evening dinner
Astra tech社から今年もパーティーに招待して頂きました。
Glyfada Beach沿いにあるレストランを貸し切っての開催でしたが、波の音も聞こえるとても素敵な場所での開催で参加された皆さん大盛り上がりでした。
日本の製品を誇りに感じるとともに、世界の先生方と色々とお話できることは国際学会の醍醐味でもあり、楽しく過ごさせて頂きました。
アテネでもひと際高い丘の上、アクロポリスにそびえたつ世界遺産パルテノン神殿です。アテネを訪れたからには是非観てみたいと思っていましたが、実は滞在期間中“ギリシャ危機”の影響で従業員のストライキにより訪れる前日は閉鎖されていました。ストライキもようやく解除され、実際に観た感動はひと際でした。その荘厳さは圧巻です。BC430年頃建設されたパルテノン神殿は1687年まではほぼ完全な形で残っていたそうです。現在も国家プロジェクトによる修復工事が進められていますが、是非また観てみたいものです。
仮歯を用いる目的にはいくつかあります。 インプラントの治療期間中におおよその見た目の回復・最終の歯を作製する際の形態の参考・歯の周囲組織(歯ぐき)の安定を図る・歯があることによる機能(咀嚼や発音など)の確認など様々です。
時折、患者様から「仮の歯を作らずに、最終の歯を作る方が早く治療が終わるのではないですか?」とご質問を頂きます。確かに早く治療は終わるかもしれませんが、症例にもよりますがより良い結果を得る為には、仮歯を用いる治療方法は上記の目的から非常に大切で有用な治療方法となります。
実はここ、地下鉄の入り口です。本来であれば通年営業しているはずの公共交通機関ですが、ストライキによりシャッターが締められ閉鎖の張り紙までしてありました。よりによってこんな時期にストライキとは・・・と参加した先生方みなさん嘆いておられました。アテネ滞在中の1日は、公共交通機関である地下鉄・バスに加え、タクシーまでストライキでストップしている日がありました。移動は徒歩しかありません・・・本当に苦労しました。
インプラントを顎骨に埋入する際には、骨質に加え十分な骨量が必要になってきます。その骨量が十分にない場合などに用いる骨補てん材は各メーカーから様々な種類や形状・性質のものが開発され販売されています。
数年前まではそれほどでもありませんでしたが、韓国のインプラントメーカーも出展が増えてきました。今回メーカーの方から詳しくお話をお聞きしましたが、それぞれのパーツにとても工夫を凝らし開発をされておられました。
皆様も御存じの通り経済情勢で混迷しているギリシャでの開催ということで、今回は周囲の方々から参加にあたりご心配頂きましたが、無事に帰国して参りました。実際に訪れた際のアテネ市街は一見、平和ではありましたが、公共交通機関などのストライキなど不自由もありました。しかし、激動のユーロ圏の一幕を実際に感じることができたのは大変貴重な経験でもありました。
また、海外での学会参加により普段日本では学ぶことのできない知識や新製品などの情報も今年も学ぶことができました。今回もお世話になりましたメデントインスティテュート伊藤正夫先生、ならびにご一緒させて頂いた先生方に心より御礼申し上げます。今回学んだ知識・技術をまた明日からの診療に役立てて参る所存です。