Dr.新井の海外レポート9
ニューヨーク大学歯学部(NYU College of Dentistry / New York University)卒後研修レポート
こんにちは。artistic dental clinic 歯科医師・新井です。この度私はアメリカ・ニューヨーク大学歯学部の卒後研修プログラムを受講して参りました。この卒後研修は2年間に及ぶプログラムとなっており、ニューヨーク大学を拠点に世界各地に赴き、インプラントに関するより高度で最先端の知識・技術を習得することを目的に開催されています。実際、今回のこのプログラムでは、日本・東京、アメリカ・ニューヨーク、中国・天津、中南米・グアテマラの各地で研修が開催されました。
日常の診療の最中、世界各国で開催されるこのプログラムへの参加は時間と体力との闘いでもありましたが、その分、大変実りの多い研修となりました。その模様をご報告させていただきます。
久しぶりに訪れたニューヨーク・マンハッタン。世界の政治・経済の中心でもあるニューヨークはいつもながら他に類を見ない活気と魅力が溢れる大都市です。今から始まる2年間の研修、そのスタート地点にも相応しい場所です。
アメリカ・ニューヨーク大学歯学部(NYU Dentistry)
ニューヨーク大学はニューヨーク・マンハッタンに本拠を構える全米でも屈指の名門私立大学です。特に歯学部は我々インプラント治療に従事する歯科医師にとっては、最先端の知識と技術を常に世界に向け発信する教育機関の一つであります。また、卒後研修のプログラムも充実しており、世界中から歯科医師の方々が集まってこられます。
Paul Fletcher先生の講義です。コロンビア大学のAssociate clinicalprofessorでもあるFletcher先生からはインプラント周囲炎に関するレクチャーがありました。インプラントは大変丈夫なもので一般的には長持ちするものですが、放っておくと通常の歯と同様に、周囲に炎症が生じ弱ってしまう場合があります。様々な原因、それらに対処する方法はありますが、やはり一番重要な事は予防であり、日々および定期的なメインテナンスの重要性を改めてご示唆頂きました。
Spiro Condos先生からはインプラントを審美的に良好な結果に導くための詳しいレクチャーがありました。インプラントは歯が無くなった部位の骨に埋入しますが、歯を喪失すると次第にその部分の骨量は減少し、それに伴い歯肉量も減少します。歯の喪失を長期に放置しておくことは様々な観点から望ましい状態ではありませんが、骨量や周囲歯肉状態の観点からも、特に審美的(見た目)に関わるエリアでは早期にインプラントによる治療を行うことが良好な結果を得るために望まれる場合があります。
NYといえばステーキ!ということで、先生方とご一緒にやって参りました。こちらもNYで有名なステーキハウスだけあってとても美味しかったです。
インプラント治療を行う場合には色々なケースがありますが、大きく分けて複数本または単独(1本)のインプラントによる治療に大別されます。それぞれに考慮する点があり、特に単独のインプラントでは、その歯が本来もつ形態・解剖学的指標が大変重要になります。歯にはそれぞれ部位によって異なる形態学的特徴があり、Weisgold先生からは改めてその重要性についてのレクチャーがありました。丁寧なご解説とレクチャー、誠にありがとうございました。
多くの犠牲者が生じた9.11 NY同時多発テロ。現在、グラウンドゼロはメモリアルとミュージアムが整備されています。この日もたくさんの方々が訪れていました。
ニューヨーク大学インプラント科のSang-ChoonCho先生のレクチャーです。Cho先生は特に上顎洞に関する論文やジャーナルを多数執筆もされておられるスペシャリストです。先生からは上顎洞に対する手術法を詳しくレクチャーして頂きました。この日は実際のインプラント手術も見学させて頂き大変参考になりました。詳しくご教示頂きありがとうございました。
以前の海外レポートでも触れさせて頂きましたが、僕の友人がNYでタップダンスをしています。残念ながら今回はスケジュールの都合が合わず彼のショーを観ることは叶いませんでしたが、久しぶりに再会できました。自称「益々活躍している」そうですがそれを信じてこれからの健闘も祈っています!
上顎洞にアプローチする際のレクチャーです。上顎臼歯部(奥歯)に近接する上顎洞と呼ばれる部位は空洞で、臼歯を治療する際に骨量を増加する必要がある場合があります。このレクチャーでは、その際使用する最新の材料や器具に関して、それぞれの利欠点も踏まえながら詳しくご紹介頂きました。日本では使用されていない物も多く、大変参考になりました。
伝統あるニューヨーク大学は建物こそ趣きはありますが、内部はうってかわって最先端の設備と最新鋭の機器が備えられています。学生さん達も勉学・実習ともに充実した毎日を過ごしていることでしょう。また病院内には著名なDenisTarnow先生が設立されたインプラント専門棟も併設されています。
ドイツのEdyPalti先生のレクチャーです。Palti先生からはインプラント治療をより良好な結果へと導くための総合的なお話がありました。インプラント治療を行う場合には、インプラントを埋入する外科的分野と、歯を作製する補綴的分野と、歯周組織学的分野それぞれを理解し、進めていく必要があります。その過程においての重要な要因に関して今回はご講演賜りました。
今回のカリキュラム、最後はPaul P.Chang先生からのレクチャーです。Chang先生からは審美領域における抜歯インプラント即時埋入についてのお話がありました。インプラント治療は歯が無くなった場所に行う治療ですが、歯を抜かなければならない状態になった場合に、歯を抜いてから時間をしばらくおいて治療を行う場合と、抜歯をして即時にインプラントを埋入する場合があります。それぞれに利点がありケースバイケースですが、この即時に埋入する方法によって、より良好な結果を得ることができるケースがあります。それらの線引きには様々な知識や技術、そして診断が重要になってきますが、Chang先生から改めて詳しくご解説がありました。
中国・天津医科大学
天津では、天津医科大学にて研修が行われました。今回の天津医科大学では主に解剖学を改めて学びました。我々インプラント治療に従事する歯科医師にとって、神経や血管など体の仕組みは基本中の基本です。学んでも学びすぎることはありません。知識の整理にもなり大変有意義な研修でした。
せっかくなので本場・中国料理です。とっても美味しく頂きました。お店も宿泊したホテルもとても良い方ばかりで楽しく過ごせた研修です。今回もNYUの同期の先生方には本当にお世話になりました。天津でのカリキュラムも無事終了です。皆様ありがとうございました。
東京・東京医科歯科大学
今回の研修プログラムは東京医科歯科大学にて開催されました。ニューヨーク大学からわざわざ東京までお越し頂きましたKendall Beacham副歯学部長、並びにMichael Sonick先生には心よりお礼申し上げます。
マイケル・ソニック先生からは主に骨増生や軟組織移植について詳しいお話をお聞きすることができました。インプラント治療を行う場合、その周囲組織である骨および歯肉の状態がどのような状態にあり、どのような処置が必要であるかを見極めることはとても重要になります。また講ずる処置についてもその状況により様々な方法や材料があります。ソニック先生はそれらをできるだけ分かりやすくまとめ、系統立ててお話しをしてくださり、大変参考になりました。ありがとうございました。
グアテマラ・フランシスコマロキン大学
次に訪れたのは中南米・グアテマラです。日本から飛行機を3回乗り継ぎ、途中気象条件により隣国エルサルバトルに駐機するというハプニングにも見舞われ、到着まで約30時間かかりました。中央アメリカに位置するグアテマラ共和国は、人口約1,400万人、日本でも有名なコーヒーを主要産物とする農業も盛んな国家です。グアテマラはスペインの統治下にあったため、公用語はスペイン語、街並みもヨーロッパの面影を残していました。
今回お世話になったのは、中南米トップクラスの有名大学であるフランシスコマロキン大学(UFM)です。その歯学部にはグアテマラのみならず周辺各国から入学を希望する方がいるそうで、中南米トップクラスの歯学部となっております。
研修の始まりにあたり、フランシスコマロキン大学歯学部長Alfaro先生からレクチャーがありました。先生は我々日本から来た一行を大変温かくお迎えくださりました。お忙しい中、お心のこもったおもてなし、貴重なご講演誠にありがとうございました。
正直なところグアテマラの大学病院の設備とは一体どんなものだろう・・・と、訪れるまで思っていましたが、あまりの近代的な設備にそんな不安は一気に吹き飛びました。高度な衛生状態を保ち、最先端の手術設備を備えるマロキン大学の設備には目を見張るばかりです。
詳細な撮影はできませんが、設備も整った中、現地大学病院のスタッフの方々が手際よくご準備してくださり、大変スムーズに手術を行うことができました。心より御礼申し上げます。
手術とはチーム医療であり中心人物(医師)だけが上手でもスムーズでもあまり意味がありません。様々な点でより良い結果を求めるためには、それに携わるスタッフも含め皆が熟練している必要があります。これは一般の歯科医院でも言えることですが、このあたりがインプラント治療に対して専門性が高いかそうでないかの大きな違いの1つになります。
研修の合間にもNYUのCho先生からは、常に丁寧な指導があります。上顎には上顎洞(副鼻腔)という空洞があり、インプラント治療を行う場合(特に上顎臼歯部(=奥歯))、常にこの空洞の存在や大きさがどれくらいのものかを評価し、治療方法を検討する必要があります。この空洞には骨は存在しませんので、インプラントを埋入する必要がある部位が空洞に近接している場合やそもそも空洞が大きい場合など(個人差あり)は、骨量の増大を何らかの方法で行わなければなりません(骨増生)。今回のグアテマラの研修ではこの上顎洞に対するアプローチを中心に講義、研修が行われました。
合わせまして、このような栄誉ある修了書を授与頂きまして心より御礼申し上げます。
修了式に際してはとても素敵なパーティーを開催して頂きました。マロキン大学でお世話になった歯学部レジデントの方々や先生の方々もご参加いただき大変華やかなパーティーとなりました。皆様に感謝です。
川原大使からは日本とグアテマラとの友好関係の歴史や協力活動などについて詳しくお話をお聞きすることができました。グアテマラにおいては特に病院などの公共施設や、防災関係のインフラ整備などにご尽力なさっておられるそうです。日本国大使の方から直接このような貴重なお話をお聞きすることができ、大変光栄でした。また海外でご貢献される大使はじめ日本国の活動を誇らしく感じました。川原様は本年でご退任とのことで長らくの間お疲れ様でした。またいつかお目にかかれる日を楽しみにしております。川原大使、お忙しい中本当にありがとうございました。
世界遺産・グアテマラの旧首都でもあったアンティグアの街並みです。残念ながらゆっくりと観光をする時間はありませんでしたがとても素敵な街並みでした。
研修も終わり半日だけ時間があったので、皆さんとコーヒーファームを見学することができました。せっかくのコーヒーの本場グアテマラ、ここを見学せず日本に帰るわけにはいきません。グアテマラシティーは標高が高く日中の寒暖差があるため、コーヒーの栽培にはとても適しているそうです。
コーヒーと言えばいわゆる“茶色いコーヒー豆”のイメージしかありませんでしたが、こちらでは種を植え付けてから製品になるまでのすべての工程を紹介してくれました。コーヒーは種を植えてから苗木になるまで約3年、コーヒーチェリーといわれる赤い実になり収穫できるまでは5年以上もかかるそうです。その収穫した豆を丁寧に精製し、世界各国に輸出しているとのことでした。
研修ももちろん充実したものとなりましたが、それ以上に普段訪れる機会のない異国であるグアテマラで過ごせた日々は間違いなく歯科医師として、また一人の人間として大きな糧となりました。この地球にはまだまだ知らない場所がたくさんです!
アメリカ・ニューヨーク大学
ついにこの研修プログラムも最終カリキュラムです。総決算として再びニューヨークにやってきました。訪れたのは12月、NYは本場クリスマスシーズンです。新アメリカ大統領のお住まい近辺も大いに盛り上がりを見せていました。街中ではクリスマスを彩る煌びやかな装飾があちらこちらに施され、行きかう人々の笑顔もまたどこかハートフルに感じます。
Ziv Mayer先生から審美領域における骨増生に関するレクチャーがありました。一般的に歯がなくなると、その部位の骨量と歯肉のボリュームは減少してしまうことは先述させて頂きましたが、特に見た目に関わる前歯の治療では、その減少した状態が不利な場合があります。そのような場合には、あらかじめ骨量を回復させる骨増生とよばれる処置、あるいは軟組織(歯肉)の移植が必要になります。レクチャーでは骨量を回復させる際の留意点などについて詳しくお話しして頂きました。
今晩は、同期の皆さんとNYの定番・ステーキに。マンハッタンで人気のステーキハウス。お肉もロブスターも超巨大でした!
グアテマラの研修でもお世話になったPaul Yu先生のレクチャーです。Paul先生は骨増生や骨移植といった、減少した骨量を回復させる方法に関する研究や治療をご専門に取り組んでおられます。先生からはそれぞれの部位に応じた最新の材料やテクニックなどご教示頂き大変参考になりました。3Dプリンターを活用した骨増生方法などにも取り組まれ、それら方法もご紹介してくださり大変興味深く感じた次第です。分かりやすく丁寧にご教示頂き誠にありがとうございました。
この日は大学での研修が終了した後、ニューヨーク大学歯学部歯内療法学講座でClinical Assistant Professorを務めておられる岡勝至先生が我々のために特別にプライベートセミナーを開催してくださいました。インプラント治療はあくまでも歯を喪失してしまった場合の治療法であり、我々歯科医師の本分は歯を可能な限り保存することです。先生の御専門は歯内療法(=歯を保存する治療)で、僕も普段はいかにして歯を治療し保存するかにも注力しています。そのような中、先生のレクチャーは大変参考になりました。岡崎先生は偶然にも僕の大学の大先輩にあたり、日本人でありながらニューヨーク大学で教鞭までとられていることにただただ尊敬するばかりです。岡崎先生、お忙しい中本当にありがとうございました。
セミナー終了後、岡崎先生が我々一同をご招待頂きパーティーを開催してくださいました。クリスマスシーズンのNYのレストランはいつも以上に素敵で、おいしい食事と楽しい時間を過ごすことが出来ました。
東京での研修でもお世話になったMichael Sonick先生のレクチャーです。残念ながら歯の保存が困難で抜歯適応となった場合、インプラント治療を抜歯後どのタイミングで行うかは通常、計画立てて進められます。抜歯と同時にインプラントを埋入する方法、または抜歯後一定期間が経過してからインプラントを埋入する方法、に大別されますが、それぞれに利点があり、どちらを選択するかには診断が重要となります。Sonick先生からは診断からそれぞれについての治療方法などに関する詳細なレクチャーがありました。東京に引き続き、今回もありがとうございました。
この日は我々各自の症例に関する発表をさせて頂きました。僕自身、講演させて頂くことには多少慣れていますが、ご高名なCyril Evian先生がお聴きくださるとのことでいつもとは違う緊張感がある中、日々取り組んでいる自身の治療内容についてお話しさせて頂きました。実際の症例を発表し、先生のお考えに触れるこのような機会は大変参考にもなります。終了後にはアドバイスもお褒めのお言葉もいただき身に余る光栄でした。今後も良好な結果となるよう専心致します。
Amato先生のレクチャーでは、抜歯後即時にインプラントを埋入する場合での適応症や治療法、また留意点などに関して詳しいお話がありました。当院でも抜歯即時埋入治療を行う際は、やはり診断に大変重きを置いています。様々な状態がある中での診断における考え方、また実際の治療において先生が取り組まれている方法など、今回のレクチャーでは大変詳しくご解説賜りました。
インプラント治療は、スタートから様々なステップを経て最終の歯を作製するに至ります。その全ての過程でインプラントおよびその歯が長期に長持ちするよう考慮しなければなりません。様々な材料や治療法がある中、より良い考えや方法を選択しようとする際、参考になるものの一つが論文です。論文には研究や臨床結果に基づく様々なエビデンスが示唆されています。Romano先生からは論文に基づくエビデンスを織り交ぜながら、長期に安定したインプラント治療のための方法について詳しくご解説頂きました。僕自身も日々インプラント治療に従事するなか、やはり一番には患者様のインプラントが長期に長持ちすることを念頭に従事していますので、先生のレクチャーは大変参考になりました。貴重なご講演ありがとうございました。
ニューヨーク大学歯学部卒後研修修了式
修了式ではニューヨーク大学から記念パーティーも開催してくださいました。パーティーでは2年間お世話になった方々へ、僭越ながら我々からも感謝を込めて御礼をさせて頂きました。Kendall Beacham副歯学部長はじめ皆様にサポートして頂き、研修も無事に終了です。皆様本当にありがとうございました。
ニューヨーク・コロンビア大学
今回の研修を終え、最後にニューヨーク・コロンビア大学にて開催された学会に参加しました。この研修の傍ら、インプラント治療に関するレポートの作成や筆記テストの受験、ケースプレゼンテーションなどの課題に取り組み、国際口腔インプラント学会・Judy会長からインプラント指導医(Diplomate)の資格を授与して頂きました。同学会の最高位であるこの資格を頂けたことは大変栄誉であります。これを糧に今後も努力を惜しまず研鑽する所存です。
2年間に渡り世界を訪れ、世界各国の先生方からインプラントに関する様々な最先端の知識と技術を学ばせて頂くこのような機会に恵まれた僕には、歯科医師としてこれら知識と技術を皆様の治療に役立たせる責任があります。
すべての素晴らしい恩師である講師の方々と、今回の研修をサポートして頂いた多くの方々と、多くの友、そして素晴らしい出会いに感謝しつつ、今回のレポートを締め括らせて頂きます。